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世代を超えて留学体験が共有できるオンライン・コミュニティを構築する「グローバル人材5000プロジェクト」。中心メンバーである東洋大学 国際地域学部 芦沢教授に話を伺った。

日本の留学交流の活性化を目指すプロジェクト

天野:グローバル人材5000について教えて下さい。

芦沢:このプロジェクトは明治大学の横田雅弘先生を代表とする科研費「グローバル人材育成と留学の長期的インパクトに関する国際比較研究」という研究プロジェクトの一環として始まりました。5000人という規模の調査ですが、単にデータ分析で終わらせるのではなく、社会にインパクトのある実践的なプロジェクト、オンライン・コミュニティとして発展させたいと考えています。グローバル人材5000は、アクションリサーチという意味を込めて、科研メンバーだけでなく、GiFT、日本国際化推進協会などのNPOや企業の方々などの参加を得て展開しています。このプロジェクトには3つの目的があります。

1.教育・啓蒙
世代を超えて留学体験を共有するオンライン・コミュニティの構築

2.研究
5000人規模のデータベースを活用し、留学がその人の将来のキャリア形成や個人の成長にもたらす効果を分析します。

3.ネットワーク
留学経験者同士のネットワークはもちろん、産官学が連携したネットワークを作ります。

留学の成果を分析するため、留学の前後にアンケートを実施するなどのことは、今までも多くの大学や企業などで取り組まれてきました。しかし、留学経験者の10年後や20年後まで追いかけた研究は日本ではほとんど行われていません。

天野:インターネットサービスの発達により、今までの一方向のコミュニケーションだけでなく、双方向・多方向でのコミュニケーションが可能になっているので、体験談を語るだけとは違う新しいコミュニティースタイルができますし、たくさんの人が一堂に会することが可能になりますね。

芦沢:留学経験者の中には自分の経験を他の人にも伝えたい。という想いを強く持っている方も多くいらっしゃいます。
情報を知りたい人と、情報を伝えたい人。両方が交流できる場を作りたい。また留学経験者同士や留学希望者同士の横のつながりも作りたい。という想いからこのプロジェクトが生まれたのです。

なぜ日本人の海外留学生が減っているのか?

天野:私自身が高校留学を決めたキッカケが、地元の先輩が留学したことでした。遠くにいる著名人が留学をするよりも、身近な人から留学をするほうがよっぽどインパクトが強く、自分への影響力が大きいと私は身を持って感じました。

芦沢:体験者と直接コミュニケーションがとれることはとてもインパクトのあることです。その人の人柄・人となりを感じるのと、人となりのわからない人のプレーンな体験談を聞くのでは、印象が大きく異なります。

天野:留学生数自体がここ10年で大幅に減少していますが、グローバル化は待ったなしで進んでいます。留学生を増やす為には今までやっていたこととは違うアプローチをしなければいけないですよね。

芦沢:留学生が減っている事については、18歳人口が減っているから仕方ないという見方もできますが、一方でこれだけグローバル化が進んでいるのだから増えるべき。という考え方もあります。どちらもが正しいと思いますが、しっかりとした分析が今までなされていないということが問題だと考えます。私たちの研究チームでも原因を分析しておりまして、その成果は徐々に論文で発表しています。

天野:経済的理由で留学に行けない。など様々な理由はあげられていますが、実際に何が理由でここまで急激に留学生が減ったのかは確かに確実なデータが無いですね。

芦沢:内向き志向ということもよく言われますが、私が実際に日々学生と触れ合っていて感じるのは、「留学に行きたい」という想いを持っている学生が決して減っていないということです。データを分析するとわかりますが、米国への日本人留学生が減少した最大の要因は、学部レベルで学位取得を目指して留学している人が減少したことです。たとえば2000年に32,000人以上いた学部レベルの日本人留学生は、2011年には9400人にまで減っています。日本の状況という意味では、全入時代と言われるように、選ばなければ国内の大学どれかには入れる。さらに学費も海外より安いとなれば、国内での大学進学を希望する学生が増えているという状況も留学生数減少の原因と考えられますよね。

全ての人に留学のチャンスを!

天野:留学を推進する動きが高まっていますが、芦沢先生にとって留学することのメリットとはどういうことがありますでしょうか?

芦沢:今までに経験したことのないこと、日本で経験できないことを経験することで大きな成長に繋がる。外に出ることで自分自身や日本のことを再認識できる良い機会だと考えています。

天野:海外経験者や語学堪能な方を求める企業も増えていると聞きます。

芦沢:海外経験者を求める企業は今後さらに増えるでしょう。私はチャンスがあれば全ての人が留学しても良いと思います。学校のプログラム等で全員に留学経験をさせる大学も増えています。こういう大学の取り組みも重要ですね。もちろん、すべての大学で実施することは難しいですが。短期的には留学することで辛い思いや苦労もあるでしょう。しかしその経験は必ず将来に活きる経験となるのです。

社会のニーズに合わせた教育を提供すべき

天野:小中高の学習指導要領の変化や、大学入試での外部テストの採用など、グローバル人材育成に向けて様々な取り組みがされていますが、これらは今後どのような影響をもたらすと思われますか?

芦沢:そのような内容に私が意見を言うような立場ではないですが、社会のニーズに合わせた教育を提供すべきだと思います。
大学入試が変わらないと高校教育が変わらないというのは情けない。社会全体が必要と感じる教育を学校現場は提供すべきです。

天野:「グローバル人材」や「グローバル教育」という言葉がはやり言葉のようになっていて、多くの学校が同じような取り組みをしているのも見受けられます。

芦沢:特に国際教育に関しては公的資金に依存せざるを得ない状況にある学校が多いと思います。私は公的資金の依存から脱却できるように、独立採算の国際教育のビジネスを作りたい。 今後の国際教育は自立できるものであるべきです。

芦沢真五

芦沢真五さん
東洋大学 国際地域学部 教授
1995年フルブライト奨学生としてハーバード大学教育大学院に留学。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、大阪大学、慶應義塾ニューヨーク学院、明治大学国際連携機構などを経て2013年より現職。「異文化理解と協働」「留学のすすめ」などの授業を担当するとともに、グローバル人材育成事業(タイプB)のプロジェクトを推進している。

編集後記

私自身の経験から、体験者の声が聞けるということは留学検討者にとって大きな後押しになることは知っている。しかし、自分に影響を与えてくれる人が必ずしも身近にいるとは限らない。
「チャンスがあれば全ての人が留学しても良い」という芦沢先生の言葉はまさに私も共感するところだ。「留学したから良い」ということではない。「留学を経験すべきだ」ということだ。
留学経験から何を得るのか、その後どう活かしていくのかは本人次第だ。ただ、そのチャンスを多くの人に平等に与えてあげることが重要だ。
これだけ情報社会になっても、まだまだ情報格差がある。特に東京、その中でも特定の大学に通う人たちは圧倒的に情報量があると私自身感じている。
グローバル人材5000プロジェクトが多くの日本人に良い影響を与えるプロジェクトに成長することを願う。

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