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今やどこの企業でも「海外で活躍できるグローバル人材が欲しい」という声を耳にする。
留学経験のある新卒生を採用するだけでなく、若手社員を新興国に派遣して、武者修行をさせる企業も増えていると聞く。
このような企業のニーズを先取りし、新興国と企業をつなぐ留学ならぬ「留職」プログラムを提供しているNPOがあると聞いて、NPO法人クロスフィールズ代表理事の小沼大地氏に話を伺った。

人に影響を与える仕事がしたい

天野:クロスフィールズのことをお聞きする前に、なぜこのような活動をするようになったのか、そのきっかけを聞かせていただけますか。

小沼:もともと大学時代に、いろいろな国を見たいと思って、バックパッカーで途上国に行くことが多かったのです。
しかし、ただの旅行では、楽しいことは経験できるのですが、その国の人と同じ飯を食べて、同じ家に住んで、いっしょに仕事をし、ケンカをするということまでやらないと、本当の異文化理解はできない。
もっと外の世界を見たいと感じていました。
一方、大学3年になって周囲が就職活動を始める頃、自分はどうするのか、就職するのか、普通の人と同じことをするのではなく、何か面白いことがしたいと悩みました。
そのときに、青年海外協力隊という選択肢が浮かびました。
そこなら、外の世界を見ることができて、かつ普通の人と違う経験ができるのではないかと思ったのです。

天野:なるほど、青年海外協力隊での経験が、今の活動につながっていると。

小沼:実はさらにさかのぼると、もともと私は教師になりたいと思っていました。
教員免許も持っています。
なぜかというと、高校時代に部活の顧問の先生から大変影響を受けて、自分も人に影響を与える人間になりたいと強く思ったからです。
ただ、大学を卒業してすぐではなく、社会経験を積んでから教師になろうと思っていました。
それで、青年海外協力隊として中東シリアに行き、シリアの農村部の村で活動するという経験をしました。
帰国後、協力隊の経験が自分を一番変えたということに気付き、そうした経験を提供することで人に影響を与えたいと思い至りました。
それが「留職プログラム」につながっていきました。

非営利とビジネスを結び付けると大きなインパクトを産む

天野:シリアでは具体的にどんなことをされたのでしょうか。

小沼:現地のNPOに勤めました。
そのときに、ドイツの経営コンサルティング会社の社員の方々が出向という形でそのNPOの幹部に就任し、彼らといっしょに仕事をしました。
彼らはビジネスの手法でもって、NPOの業務や収益の問題を次々と解決していきました。
それを目の当たりにし、自分が志向した国際協力とか異文化理解という非営利な活動と、ビジネスとがつながると、大きなインパクトを産むということを実感しました。
それがきっかけで、ビジネスと非営利の世界とつなげる仕事を自分のキャリアとしてやっていきたいと思ったのです。
非営利活動はシリアで経験できたので、帰国後は、コンサルティング会社に就職してビジネスを学びました。
そして今年5月、クロスフィールズを立ち上げ、活動を始めました。

天野:クロスフィールズでは具体的に何をやっているのですか。

小沼:「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ること」をミッションにかかげ、「留職」というプログラムを実施しています。
これは、企業の社員を新興国の社会セクターに派遣し、そこで一定期間仕事をしていただくというもので、目指していることは、企業の人が、本業のスキルを使って新興国の社会的課題を解決していくということです。
このアイデアの背景にあるのは、マイケル・ポーターというハーバード大学の教授であり経営学者が、『共通価値の創造(Creating Shared Value = CSV)』という論文で提唱している考え方です。
つまり、これからの企業は、経済的価値と社会的価値の両立を意識して経営をしていかなければ、ビジネスはうまくいかないということです。
平たく言うと、お金を儲けることと、社会貢献とを切り離して考える時代は終わって、今やそこをいっしょにやっていかなければいけない時代にあるのです。
しかし、よく考えるとこれは、日本企業が昔からやってきた「三方よし」という考え方に通じるもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」ということを、日本企業は昔から目指してきたのです。
それがいつの間にか、社会全体がもうけ主義に走ってしまって、実は社会のために働きたいと思っている人たちが、情熱の持って行き場を失い、会社を辞めてしまう。
こういう状況が長く続いていたと思います。
そこをなんとかしたい。
社会の未来と組織の未来の両方を見ることができる人を、組織の中で作れるような仕組みを提供していきたい。
そこで、留職プログラムを思いついたのです。
一定期間ではあるのですが、新興国に行って、社会的な価値に重きを置いている組織で働く経験を積む。
それによって、社会的価値と経済的価値の両方を見ることができる。
すると、これまでの考え方が肌感覚レベルでがらっと変わると思うのです。
その人たちが会社を出ていくのではなくて、会社にもどって、会社のリソースを使って、社会を変えるような事業をやっていただくというのが留職プログラムの目指すところです。

真のグローバル人材とは

天野:まさに、今大変話題になっているグローバル人材を育成するプログラムでもあるのでしょうか。

小沼:世の中で言われているグローバル人材の定義とは微妙に違うような気がします。
今言ったような、「社会的価値と経済的価値の両方を考えられる人材」とは、グローバル人材だけでなく、これからの社会を生きる人はみな持っておかなければならない価値観だと思います。
留職プログラムって日本では全く新しい考え方なのですが、最近アメリカに行って聞いたら、既にアメリカでは似たようなことをやっていると言うのです。
先進的に行っている企業や団体にヒアリングしたのですが、2006年ごろには4〜5社が、2011年には20数社がやっていて、派遣する人数も年間約2000人にのぼるという。
青年海外協力隊で2011年に派遣したのは1700人。
それをわずか4年で超えるくらいのムーブメントが起きている。
なぜですかとアメリカの企業に聞いたら「グローバル人材が欲しいからだ」と。
「え、どういうことだろう」と思いました。
日本の企業にグローバル人材とは何かと聞いたら、まず「英語ができて......」と言うでしょう。
アメリカ人なら英語は当然できるのに、なぜグローバル人材なのだろうと。
すると、腑に落ちたのは、「この先、アメリカなど先進国の市場はどんどん縮小していく。これから注目すべきは新興国だ。従来は、先進国が途上国に、先進国のやり方を押しつける形でビジネスをやってきた。しかし、今やそのやり方は通用しない。現地の人を理解して、現地の人と一緒に何かを作っていくというアプローチをしなければ、その国といっしょにビジネスはできない」という答えでした。
従来の、先進国主導のビジネスのやり方ならば、MBAを取得した優秀な人を集めてやればよかった。
しかし、新興国の人たちとともに何かを作るとなると、現地に行って、現地の目線でいっしょに仕事をするという経験を積ませる必要がある。
なので、新興国のNPOに人材を送るということをやっているのだと。
これは私の中で、「グローバル人材とは」という問に対する答えとなりました。
ある一つの正しいやり方を押しつけていくのではなく、異なる価値観の人たちの考え方を理解して、同じ目線でものごとを考えて、いっしょにものを作り上げていける人。
これが、真の意味でのグローバル人材だと思っています。

後編へ続く

(2011年12月22日取材)

小沼大地さん

小沼大地さん
特定非営利活動法人クロスフィールズ代表理事。一橋大学卒業後、青年海外協力隊での経験がきっかけとなり、クロスフィールズの原型ともいえる非営利とビジネスを結びつけた事業の構想が生まれる。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。青年海外協力隊とコンサルティング会社で積んだ経験と知識を糧に2011年5月、クロスフィールズを立ち上げる。

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