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公立小学校・中学校で33年間教員として勤務し、54歳で退職。
英国立リーズメトロポリタン大学大学院に留学し、その後独立。
教える立場でありながら学び続けることを実践している小川氏。
教育現場も知る小川氏に話しを伺った。

小中高お互いにコミュニケーション、フィードバックで連携はうまくいく

天野:小川さんは小学校でも長く教鞭をとられてきて、今は英語スクールをご自身で立ち上げられましたが、小学校の外国語活動など最近の英語教育の変化についてどう思われますか?

小川:小学校外国語活動では、「コミュニケーションの素地を養う」を目標にしています。
これを「外国語を通じて」行っていくわけですから、近い将来、中・高の英語教育にも良い影響を与えていくと思います。
授業ではTT授業が多くなり、ALTだけでなく地域人材を活用する小学校が増えており、閉鎖的と言われる学校が徐々に開かれた場になっているように感じています。
また、文科省からHi, friends!など教材の電子データが配布され、電子黒板を活用しての活動が増えICTの普及に大きな貢献をしています。

天野:中学校との連携がうまくできていないとの批判を多く聞きます。

小川:連携というのは難しい問題ですが、小学校ではどんな活動を行ってきたのかを中学校にしっかりと伝え、中学校では1年生の初期の指導法などを、小学校の担当者に伝えるだけでも連携の一歩になると思います。
また、中学校から小学校へ新入生の印象、実態などフィードバックを積極的に行うことも重要だと考えます。

英語教員の育成、再教育を最優先課題に!

天野:小川さんはなぜ教育現場を離れて独立をされたのですか?

小川:もう一度、英語教授法、そして、ずっと興味があった英語教材開発について学びたいという想いが強くなり、54歳で退職し、英国立リーズメトロポリタン大学大学院(以下リーズ・メット)に留学しました。
帰国後は、自分が学んだこととこれまでの経験を活かし、日本の英語教育に貢献したいなという思いがあり、独立という道を選びました。

天野:退職までして留学にいくということは相当な覚悟が必要ですね。

小川:退職をしなくても留学できる制度はありますが、休職し自費留学であっても、現在の制度では実際に留学するまでの手続きが大変煩雑なうえ、制約が多過ぎるように思います。
そこで退職したわけですが、リーズ・メットは私にとってとても魅力的な大学でした。
ここは教員の再教育を看板に掲げていて、150年にわたって地元の教員を養成してきた実績があります。
そして、そのモットーは「教えることは学び続けること」でした。
私はこのモットーに感銘して、ここに留学を決めました。
リーズ・メットでは全英だけでなく世界中から同じ志の教師が集まって、年齢や経験に関わらず学んでいました。
常に学び続けていないと、教えることはできないのです。

天野:私は英語教員の方には少なからず海外経験や留学経験が必要だと思っていますが、今のままだと先生達が留学経験するのは難しいということは色々な先生からも聞くことです。
制度としては整っているはずなのに、何を変えるべきなのでしょうか?

小川:リーズ・メットに学びに来ていた他国の先生は、ほとんど元の職場に復職できました。
同期で退職して留学していたのは私だけでした。
私は日本政府や自治体がもっと英語教員の育成に力をいれるべきだと感じています。
ALTの配置に莫大な予算を使うよりも、その予算を英語教員に海外経験や留学をさせるために使う方が日本の将来のためによいと思います。
中高の英語教員には数か月から1年間の異文化体験や留学を義務付けてはどうでしょう。
また、自主的に留学したい教師のために補助金を出すとか、休職制度を利用しやすいように変えていくべきです。
今や英語を話す人たちはネイティブスピーカーよりも、我々のようなノンネイティブスピーカーの方が圧倒的に多いわけです。
先生たちが海外経験や留学をすることで「国際共通語としての英語」が、これからの日本を背負う若者たちにとっていかに重要か実感することができると思います。

「プロ」として努力を惜しむな!自信を持てる教育を

天野:英語教員の英語力の低さなどが問題視されていますが、実際現場も経験された小川さんから見て、学校現場で変えられることや変えるべき点などあると思いますか?

小川:メディアでは、まるで英語教員みんな英語力が無いかのように捉えられる表現が目立ちますが、英語力も指導力も高い先生方はたくさんいます。
ただ、改善すべき点も多々あることも確かです。
部活や生徒指導などで時間が無いことも理解できますが「プロ」として英語を教える立場にあるわけですから、惜しまぬ努力が必要です。
先に述べた通り「学び続ける」ことをしなければいけないと思います。

天野:大学入試にTOEFLテストを導入することで学校教育は大きく変わる。というような議論も出てきていますがこれについてどう思われますか?

小川:より良い大学入試を考えていくことは賛成ですが、本来アメリカ留学希望者を対象にしたTOEFLを入試に使うことで、高校の英語の授業がその試験対策になることや、小学校からの日本の英語教育の成果がTOEFLの点数で判断されようになるのは好ましいことではないでしょう。
導入には指導要領との関連なども考慮して慎重に検討する必要があると思います。

取材日:2013年5月1日

小川隆夫

小川隆夫さん
(株)フロム・ゼロ 代表取締役
聖学院大学及び共栄大学講師
J-shine(小学校英語指導者認定協議会)トレーナー検定委員
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで英語コミュニケーション教育を学ぶと共に、(株)mpi会長 松香洋子氏に師事し児童英語教育を学ぶ。
埼玉県公立中学校及び小学校で33年間の教鞭をとった後、退職し英国に留学。
英国立リーズメトロポリタン大学大学院英語教授法修士課程修了
Dr. Ivor Timmisのもとで英語教材開発を学ぶ。

編集後記

社会人になってからの留学は、仕事を休むか辞めていくしか選択肢が無く、なかなか容易なことではない。
小川さんの決断は相当な覚悟のうえのものだと感じた。
しかし、世界を見ると、英語教員は当たりまえのように留学経験があり、隣国の韓国の英語教員は「TESOL(英語教授法)」の修士を持っている人がほとんどだという。
日本では、教員は休職制度があるのになかなかそれを利用できる雰囲気・環境が無いという話はよく耳にする。
一般企業でも、有休があるが使いづらい。長期休みなんて取れない。という声は多い。
このような環境から改善し、自分のスキルアップやリフレッシュの為にも効率的に時間が使えるようになるとグローバル社会で日本が勝つための道筋が見えてくるのかもしれない。
英語教員からすると、留学自体がその教員の仕事に直結するスキルアップにつながるのだから、短期間でも留学ができる環境作りを学校に求めていきたい。

キンジロー編集長 天野智之

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