特集

東大数学科卒業生有志が、理系の学生向けに立ち上げた学習塾SEG。
SEGでは英語の本で多読する新しい英語学習方法にも取り組み、実績を上げている。
SEGの塾長で、運営会社の代表でもある古川昭夫氏に話を伺った。

海外の学会で英語が通じない日本人

天野:SEGは「科学的教育グループ」というユニークなキャッチコピーを使われていますが、他の塾との大きな違いは?

古川:元々私は東大の数学科卒で大学院に行きながら数学を教えたりしていました。
そこから始まり、理系の学生向けに数学や理科を教える塾としてできた塾がSEGとなっています。
私達は学習指導要領などに捕らわれずに、自由に楽しく学ぶことに重きを置いています。

天野:理系の学生向けというところが大変ユニークですが、今では英語も教えていますね。

古川:昔、数学教育の学会で海外で発表する機会があり、日本からは私を含めて6人が発表に行きました。
その時に、日本人6人とも英語があまり上手ではなく、6人全員の英語が通じなかったのです。
皮肉なことに、私達の直後に発表したスェーデンの数学教師が「私は皆さんが完全に理解できる英語を話しますよ」というジョークで会場を盛り上げていて、英語の必要性を強く感じました。
発表はまだ良いのですが、その後のパーティーではまるで話すことができなかったという経験もあり、英語教育もやろうと思ったのです。

いきなりTOEFL導入はムリ!小中高では基礎英語を徹底すべき

天野:TOEFLテストを大学入試に導入するというような案もでており、SEGのような学習塾には少なからず影響があるのではないでしょうか?

古川:TOEFLテストについていける学生なんてほんの一握りです。
SEGの高2生でも、iBT 87点位しかとれません。
ですから、レベルにあった教育をしないとダメです。
教育というのは目標を立てて、実行しながら現状に合わせて調整していくべきです。
目標だけたてて進捗確認もせずにコロコロ指導要領を変えているようでは何もよくなりません。
今の大学入試の英語試験なんて、「英語」ではなく「国語」ですよ。
いちいち英文を日本語訳して解かせる時間があったら、英文量を2倍にして読ませる力を測れば良い。
問題も英語でそのまま解けるものにすれば、日本語訳している暇なく、すべて英語で答えるようになりますよ。

天野:高校の英語授業はすべて英語で行ったり小学校英語も教科にしようとしているなど、少しずつ変化は見られていますね。

古川:小学校英語にしても、私立で小学校1年生から週4時間、6年間英語を学んできた子供達もいますが、小学校英語の成果がでているようには見えません。
中学校1年生の2学期には、中学校から英語を始めた子たち達に追いつかれてしまう私立小学出身の子もいます。
そういう小学校ではほとんど文字を教えないのが原因の一つだと感じています。

天野:小中高の連携が出来ていないことも良く言われることですね。

古川:それぞれのレベルできちんと教育しなければ意味がない。
日本人は英語に触れる機会が圧倒的に少ないですから週4時間でも足りないのです。
ただし、中学校英語は比較的うまくいっていると思います。
中学校で学ぶ英語は基礎レベルのため、中学校英語をしっかりやったので、実践でも役に立ったという大人をたくさん知っています。
それが高校や大学になると突然難しくなり、普段の会話で使わないような単語や文法まで出てくる。
そんなことをするくらいなら小中では単語は500語だけ、大学受験では2,000語だけ。
と言う風に、単語数を絞って基礎的な英語を徹底的に教えるべきです。
難しい単語を暗記してもすぐに忘れてしまう。
暗記に無駄な時間を使うなら、簡単な英語でも自分の意見をしっかり言えるようにできるはずです。
アカデミックな英語は大学に入ってから学んでも良い。

天野:確かに社会人の方でも自身の英語力に関わらず「ビジネス英語を学びたい」という方が多くいらっしゃいます。
英語の基礎ができない方が難しい単語や言い回しばかり学んでも使えないのに、基礎を飛ばして難しい単語を学びたいという方は多くいますね。

「多読」で学ぶ英語が英語学習を変える

天野:SEGでは英語の本で多読学習をやっていますね。

古川:昔は「多読」という言葉がなく「たくさん英語に触れよう」という単純なコンセプトでした。
私は理系なので、英語学習にしても文法をどう効率的に学ぶかを突き詰めようとしていましたが、なかなかうまく行きませんでした。
そんなときに多読と出会って実践してみたらとても効果があることに気付いたのです。
多読の場合は自分の興味のある内容で、自分のレベルに合わせた本を読むので、生徒達は好きな本を楽しく読んでいます。
多読では辞書を使わずにどんどん読み進めていくことも特徴の一つです。
辞書を使うとどうしても面倒になったり、勉強という感覚が強くなりますが、わかる範囲で読み進めていけば良いのです。

天野:多読は英語学習という観点だけでなく、他の教育的観点からも評価されているコンセプトですね。

古川:多読の効果は実証されています。
英語学習においても私達は10年以上やって実績も出しています。
ただ、多読だけでは完璧ではない。
個人によって学習スピードも興味もすべて違うので、個人に合わせた学習方法を見つける事が必要。
文法やアウトプット型の学習等と、どう組み合わせて最も適切で効果的な学習方法を見出していくのか、これは私の今後の課題です。

取材日:2013年7月24日

古川昭夫

古川昭夫さん
株式会社エスイージー代表取締役
東大数学科卒業生有志が、大学生・院生が自分の専門を生かした『大学入学後にも役に立つ教育をする場』の設立を呼びかけ、SEG設立準備委員会を設立。1981年に『文化としての数学を!』のスローガンをあげて、科学的教育グループSEGを創立。
SEGは創立30年を超え、現在では日本各地の塾にカリキュラムを提供している。

編集後記

多読の授業を拝見させて頂き、何よりも驚いたことは、生徒が積極的に英語の本を読んでいること。
教室の壁一面に並べられた何千冊という本の中から、生徒それぞれの英語力に合わせて、簡単な絵本のようなものから、英訳されたマンガなど様々な本を英語で読んでいる。
「この多読を続けた生徒が高校3年生くらいになると、こういう本を読むようになりますよ」と見せて頂いたのは、普通のミステリー小説だ。
500ページ程度ある分厚い小説も軽々読めるレベルにまで達するとは、多読の絶大な効果が見て取れる。
また、さらに驚かされたのは、古川さん本人が各生徒に合わせて本を選定して勧めていること。
「この本はどうだった?」と生徒と会話しながら、何千冊という本の中から各生徒の興味や英語力に合わせた本を選んで「次はこれを読んでみよう」と勧めている。
すべての本の内容と生徒の個性を熟知した古川さんはまるでソムリエのように、生徒一人ひとりに本を選んであげる作業を繰り返す。
私自身の留学経験からも、本を読むことは重要だと感じている。
海外の大学では嫌でも多くの本を読まなければ授業についていけない。
中高生のうちに英語で読む力をここまで鍛えておけば、留学をしても怖くないだろう。
英語の本を多読するという素晴らしい活動がもっと広まれば、日本の英語力も飛躍的に伸びるかもしれない。

キンジロー編集長 天野智之

«前の記事へ |  特集一覧  | 次の記事へ»

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます