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企業の経営者を経て、現在津田塾大学の理事長、一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)の理事長も務めグローバル教育の発展にも貢献している島田精一氏に話しを伺った。

日本社会は「量」から「質」に。日本のビジネスを変える教育を

天野:島田さんは長い間海外で働いていらっしゃいましたが、今進められているグローバル人材育成の動きをどう見ますか?

島田:旅行でもなんでも、とにかく若い世代が海外に出ることは大賛成です。
私は25歳の頃、会社で初めてイタリア留学を経験させてもらいました。その際に、イタリアで日本の歴史について聞かれたことに答えられず、急いで歴史の本を大量に送ってもらって歴史の勉強をしました。
グローバルに活躍する為には、言語だけではなく日本や世界に関する知識・教養が必要なのだということに気付かされ、そのおかげで今では歴史を含め多くの知識を得ることもできました。

天野:アメリカ人であっても、英語ができるというだけで必ずしもグローバルに活躍している人たちばかりではない。知識や教養が無いと活躍できないということですね。

島田:その通りです。日本は現在中国に次いで3番目の経済大国です。経済の指標としてGDP(国内総生産)が使われておりますが、GDPは人口が多いほど多くなります。1人当たりGDPで見ると日本は中国よりも高く世界でも上位です。
既に日本の少子高齢化は始まっており、2048年には1億人割れすると言われています。
それを考えると将来の日本では、量(人数)で勝負するというやり方は考えられません。
質を上げていくしかない。その為には知識・教養・技術を高める教育が必要です。

天野:具体的に日本の産業は今後どう変化すると思いますか?

島田:現在2000社近くある一部上場企業、いわゆる大手企業の売上比率の過半数は既に海外売上が占めています。
日本の人口は減少傾向ですが、世界人口は急速に増えていて、経済力も上がっているので、海外売上比率は今後さらにあがるでしょう。
これからは海外で稼げる人材が必要になります。ただ、「労働者」として海外に出ていくのではなく、「指導者」「マネージャー」の立場で海外に出ていくことが求められます。これからは、高付加価値のビジネスに特化していくのが日本の産業の取るべき道です。 またiPS細胞などのように、日本発で海外で稼げる新しいビジネスを開発していく研究開発に投資する「産業投資立国」というのも日本が目指すべき方向です。

通訳できる語学力ではなく、相手を説得できる英語力

天野:小中高の英語教育もどんどん変化しており、グローバルに対応できる日本人を育てようという動きが活発化していますね。

島田:世界の共通語は実質的に英語になっていますから、英語は必要不可欠です。ヨーロッパやアジアの国々でも、数十年前は英語が通じなかった国々でも英語が通じるようになってきています。日本も英語ができるのは当り前にならないといけないです。
しかし、先ほど述べたように、知識や教養も兼ね備えなければいけない。通訳ができるような語学力を育てるのではなく、相手とコミュニケートできること、さらには相手を説得できるほどの知識力と語学力を持つべきだと私は考えています。

天野:語学と教養を身に付ける為に教育現場でできることとはなんでしょうか?

島田:どれだけ多くの外国人と触れ合った経験があるのかが重要だと私は考えます。宗教や文化の違いなどを積極的に学び理解する為には実践しかありません。
日本人は異文化を遠ざけ、日本人同士でのハーモニーを大切にする傾向が強いです。しかしこれからは海外との競争を避けて通ることはできません。

天野:日本文化には過激な競争は馴染まないという議論をよく耳にします。

島田:私は以前、独立行政法人住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の総裁も任されました。総裁に就任した当時は国から毎年4000億円の支援を受けていましたが、5年以内にその支援を0円にし、この事業で採算が取れるようにすることが私のミッションでした。
それから6年かけて、4000億円の赤字だった事業を2000億円の黒字にまでもっていきました。
黒字化できた理由としては、官主導でやっていた事業だった為に競争という考え方が組織内に無かったのですが、フラット35などの新しい商品で民間企業との競争で勝てる事業を作ったのです。

天野:TPPの問題などでも良く議論されますが、日本は国内の産業を保護することで競争から遠ざけてきたように思います。

島田:農業なども競争が無かった為に、気づいた時には日本は海外勢に勝てる実力を作れていなかった。成長する過程で競争は避けて通れません。
日本の企業も春の一括採用などやめて、年齢ではなく実力勝負での採用をしていくべきです。新卒採用からずれるからと言う理由で留学を避ける学生もいるようですが、これからは留学経験がもっと重要視されてくるでしょう。
必然的に日本の教育もグローバル競争に勝てる人材を育てる教育にならざるを得ません。

島田精一

島田精一さん
津田塾大学 理事長。一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)理事長
日本ユニシス株式会社特別顧問。前住宅金融支援機構理事長。元三井物産株式会社副社長。
東京大学法学部卒業。ハーバード大学経営大学院(AMP)修了。大学卒業後、三井物産株式会社に入社。アメリカ、イタリア、メキシコなど、多くの国での駐在・ビジネス経験を持つグローバルビジネスパーソン。

編集後記

様々な企業の経営を経験してきた島田さんだからこそ、グローバル競争に対する危機感が強く感じられる。
日本人は競争が苦手だ。というようなことが良く言われるが、ビジネスに置いてはもうグローバル競争は避けては通れなくなっている。現に上場企業の多くは売上比率の過半数は海外であげており、日本国内でのビジネスよりもマーケットが大きいことが伺える。?ビジネスの環境が変わっているなら、教育もそれに対応して変わっていくべきなのだろう。
留学経験や海外経験が必要不可欠になるようなことも、今後でてくるのかもしれない。

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