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産官学民が協力してグローバル教育の普及を目指す為に設立された一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)の事務局長 辰野まどかさんにグローバル教育について話を伺った。

平和は努力して維持するもの

天野:文部科学省や外務省の掲げるグローバル人材育成の構想に基づいて設立されたGiFTの事務局長に若くして就任されていますが、今の立場になるまでにどのようなご経験があるのでしょうか?

辰野:私がグローバル教育に目覚めたのは17歳の時です。それまでは、ごく普通に日本の教育の中で育っていました。ただ、中学で帰国子女の子達が多い学校に入ってしまったため、クラスの中で突然「英語ができない子」になってしまい、中高時代は、英語コンプレックスとともに英語の勉強を放棄した時期がありました。
ところが、そんな英語嫌いだった17歳の誕生日、突然母から「誕生日プレゼント」と言われて、スイスで開催される3週間の国際会議への参加をプレゼントされたのです!
そのスイス行きの経験が私をグローバル教育オタクへと変えるほどの衝撃的な体験になりました。

天野:突然国際会議に放り込まれる経験なんてすごいですね。その国際会議ではどのようなことを学ばれたのですか?

辰野:本当に何の事前情報も無く放り込まれて、スイスに行ってみたら参加者は大人だらけ。参加者の子ども以外で17歳の子供なんて私くらいでした。約50カ国から300人近くの参加者が集まっていて、会議は全部英語で行われていたのですが、当時英語は大の苦手だったので、必死に会議に参加していました。
会議は国際平和をいかに構築するかについて話し合う会議であったため、戦争、紛争の話もたくさんあり、様々な経験をしました。
ある日、夜にパーティーがあるということで私も浴衣を着て意気揚々とパーティー会場に行ったら「君は今日は参加しないほうが良い」と入口の前で止められたのです!
理由を聞いてみると、「戦争で(日本、ドイツに)勝ったことを祝うパーティー」だったのです。
日本では「終戦記念日」として知られていますが、勝った国々の人からすると、敵国を破った日なんですよね。まずその事実に衝撃を受け、何も知らずにパーティーに参加しようとしていた自分を恥じました。今から20年近く前の話ですが。

天野:戦勝国と敗戦国では学んだ歴史観も全て違うでしょうし、辰野さんがその時に受けた衝撃は想像できます。

辰野:他には、「Winds of God」という日本の映画を会議の参加者と見たときのこともよく覚えています。
映画は、日本の売れない芸人コンビが、第二次世界大戦中へタイムスリップをし、神風特攻隊として出撃することになるというストーリーで、自らの命をかけて特攻隊になることなんて理解できないと思っていた彼らが、実際にその時代に行き、戦わなければいけない立場になったら、家族を守るために特攻隊として出陣していく、という話でした。
家族や愛する人を守る為に自分の命を賭なければいけないというストーリーに、会場ではすすり泣きの声があちこちから聞こえてきました。そして、上映後にある白人女性が泣きながら「日本人にも家族を愛するような心があると初めて知った」と言われたのです。彼らからすると、特攻隊で突っ込んでくる日本人に人を愛する心はないと思われていたのでしょう。

そして3週間の会議が終わる最後の日に、私のターニングポイントとなる出来事が起こりました。その日は会議の振り返りが行われ、各自それぞれ感想を述べる時間があり、私はこの3週間を通じて様々なことを学び考えさせられたので「これからもこのような世界の人が集まり、世界の平和について話し合う場が続いて欲しいと思います」と率直な意見を述べました。
そうしたら、それを聞いていた年配の女性が「何言っているのっ!あなたが続けるんでしょう!?」と厳しい口調でおっしゃっていたんです。戦争を知っている世代のその女性の言葉は、今あなたが生きているこの平和な時代はたくさんの犠牲と努力の上に成り立っている。それは他の誰かが続けるだろうと傍観することではなく、一人ひとりが、自分自身で続けていく意志を持ち行動しなくてはならないのだと教えてくれました
平和は水道のようなもので、蛇口をひねれば当たり前に水がでるけど、裏では水道管を作り、それを管理・メンテナンスする人たち、ダムや水質を管理・メンテナンスをする人たちなど様々な人達がいるのです。平和も当たり前ではなく、きちんと意志を持って、持続させていくものなのだと衝撃を受けた瞬間であり、あのときがあったから今の私がいると心から感じています。

自分の可能性を広げるには外に出ろ!

天野:文部科学省が留学促進事業としてトビタテ!留学Japanをスタートさせて、GiFTも様々な形で留学促進事業などにも関わっていますが、留学することの重要性をどう考えていますか?

辰野:「Out of the Box」という言葉がありますが、新しい場所に行ったり新しい経験をしない限り、なかなか自分の思い込みや経験値という「Box」を越えた視点で物事を考えることができないのではないかと感じています。
海外にでるということは自分の箱から飛び出して、可能性を広げることだと思うのです。
今の自分の居る場所から出て行くことからこそ可能性は広がるんだと言ってもいいと思いますし、留学はその体験、異文化の中にどっぷり自分を置くことにつながる素晴らしい経験だと思っています。

天野:グローバル化が進むなかで日本人はどう生きていくべきだと考えますか?

辰野:「グローバルな社会を勝ち抜かなければいけない」と思っている人が多くいるように思いますが、私は「社会に勝つ」のではなく「己に勝つ」ことこそが大切だと思っています。
例えばどれだけ日本で有名な学校をでて、一流企業に勤めていたとしても、世界に出た瞬間に「そんな学校知らない。そんな会社知らない。」と言われてしまいます。「それよりもあなたは今何ができるの?」ということが問われるのが世界だと思うのです。
過去の実績ではなく、今なにができるのか、自分が属しているコミュニティーに対して何を貢献できるのか。自分も含め、そのような意識を大切に、そしてそのために具体的に行動できる日本人でありたいと感じています。

辰野まどか

辰野まどかさん
一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)事務局長
学生時代に世界100都市以上を訪れ、様々なプログラムで自らを実験台に、地球市民を育成する「グローバル教育」を体験する。コーチング専門会社勤務後、米国大学院留学し、異文化サービス、リーダーシップ、マネジメント修士号取得。その後、米国教育NPOにおいてグローバル教育コーディネーター、国連WAFUNIF主催「平和文化会議」コーディネーター、内閣府主催「世界青年の船」事業コース・ディスッカッション主任等を通して、世界各地で多国籍チームとグローバル教育を実践。現在は、GiFTとして、グローバル教育推進事業、研修事業、コンサルティング事業を手がけている。

編集後記

平和が当たり前ではなく、私達自身が維持していかなくてはいけないということ、私自身凄く反省させられる言葉だった。確かに平和ボケで、他国で起きている問題や日本の外交問題に対して意識が低かったかもしれない。
さらに、グローバル化の中では学歴よりも個々人の能力がより一層問われる。国境を越えた競争が激しくなるということは、ビジネスだけでなく、外交的な観点からも物事をとらえることが必要になるだろう。
己を知り相手を知る為に、もっと海外に出て、多くの事を経験し学ぶことは必要不可欠なのかも知れない。

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