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企業の研修としても注目される「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(暗闇での対話)」。
視覚障害者のアテンドに導かれ、真っ暗闇の中で視覚情報を遮断された世界を体験するソーシャル・エンターテインメント。
このイベントを主催する、志村真介氏に話を伺った。

状況が変わると人とのコミュニケーションが変わる

天野:暗闇の中で対話するというコンセプトは大変面白いですが、ダイアログ・イン・ザ・ダークについて少し詳しく教えてください。

志村:その名の通り、真っ暗闇の空間で人と対話するソーシャル・エンターテインメントです。アテンド(案内役)は全員視覚障害者です。普段は健常者に助けてもらうことも多い視覚障害者が、暗闇の中では立場が逆転してリーダーになります。
また、大人よりも子供のほうが順応力が高いですから、暗闇に入ると子供と大人の立場が逆転するということもあります。
人間は95%の情報を視覚から得ているといわれています。その視覚情報が0になるといろいろな行動が制限されてしまい、普段使わない感覚を使わなければいけなくなるのです。

天野:私自身もダイアログを経験させてもらいましたが、視覚情報が無いと、自分がどの方向に進んでいるのかもわからず、たったの1m進むにも手探りしながらで、ほとんど動けなくなってしまいました。
最初のうちは何とか目を凝らしたりして視覚情報をえようと必死になりますが、一条の光もないのであきらめてほかの参加者と声を掛け合ったり、手を取り合って進むしかなくなりますよね。

志村:ダイアログ・イン・ザ・ダークでは、何人かがグループになって暗闇に入ります。
暗闇に入る前は赤の他人でよそよそしかった人たちが、暗闇に入った途端にその赤の他人に頼らざるを得なくなる。人ごみの中で他人に触れると不快に思うのに、暗闇の中では人と触れることで安心する。不思議な一体感が生まれます。

例えば、満員電車では知らない人と体が触れ合うと不快なのに、その電車が事故か何かで止まってしまってみんなで協力して脱出しよう。ということになった場合、その途端に赤の他人だった人たちに一体感が生まれます。お互いに声を掛け合いながら問題解決に向けて協力を始めます。
目も合わせなかった他人が 一瞬でコミュニケーションを取り始めるようになり、リーダーシップをとる人が出てきたりと様々なことが起こります。暗闇での体験はそんな感覚に近いように思います。

暗闇だからこそ見える日本人の豊かな個性

天野:私は英語バージョンのダイアログを体験させて頂いたので、外国の方もグループにいましたが、日本人とほかの国の人たちではダイアログの仕方などで違いはあるのでしょうか?

志村:ダイアログ・イン・ザ・ダークという活動自体はドイツで生まれ、現在約35か国で開催されているイベントです。
他国から見ると日本人は確かにシャイだとか、あまりしゃべらないと思われがちですし、我々日本人自身もそう思っている場合があります。しかし、暗闇でのダイアログを体験すると実は日本人も?よくしゃべるということがわかります。
暗闇だと物を見せて説明するということができません。そのため何をするにもイチイチ声をかけて説明したり、触ったりするしかありません。
暗闇の中では、率先して前に進む人や、ほかの人を助ける人など、個々の本質が出てきて自然とグループ内で役割ができます。
協調性の高い日本人は、そういう状況に置かれるとうまくコミュニケーションをとって助け合うので、グループメンバーそれぞれの個性が見えてきます。日本人は単一と思われがちですが、実は個性豊かな国民なのだと気づきますよ。

天野:企業研修としてダイアログをする企業も多いと聞きますが、やはり社内でのコミュニケーションの円滑化や社員の個性を見るために利用されるのでしょうか?

志村:さまざまな理由でご利用いただいておりますが、ダイアログの中でそれぞれの企業の文化とか特徴というのがすごく出るので面白いですよ。
部下が上司に気を使ってうまく行動できないグループもありますし、役職や性別を超えてすんなりとうまくいくグループもあります。

内資系企業と外資系企業でも違いが出やすいですが、男女感での違いも大きいですね。
例えば女性は「見えない」ということを比較的すんなり受け入れて、視覚以外の感覚を使って行動を始めます。しかし男性は暗闇に入ってからもしばらく「見る」ことを手放せずに行動できない人が多くいます。
役職や年齢もそうですが、男性は普段の生活で持っているものに頼って手放せない傾向が強いですね。

天野:私自身留学経験がありますが、海外留学においても女性のほうが圧倒的に男性より多く留学していますし、現地に溶け込むのも早く、ホームシックになっても長引かない傾向が強いと思います。
男性のほうが臆病なのかもしれないですね。

正解は一つではない!情報を共有することでさらに知識を深める

天野:志村さんがダイアログ・イン・ザ・ダークを日本で始めようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

志村:私は元々マーケティングの仕事をしていて、「目に見える価値」を追い求めていました。
しかし、1993年に日経新聞でドイツ発のダイアログ・イン・ザ・ダークについて読んだときに衝撃を受けました。目に見えないものに価値を見出していたのです。
ダイアログ・イン・ザ・ダークの発案者であるドイツ人哲学者のハイネッケ氏に手紙を書いて日本でもこの活動をやらせて欲しいと直談判しました。

日本での初開催は1999年で、最初のうちは不定期でイベントを開催していたのですが、2009年に東京で常設化されて、今は常時イベントを開催しています。

天野:今後はこの活動をどのように広げていかれる予定ですか?

志村:ヨーロッパではすでに、音声を無くす「Dialog in silence(ダイアログ・イン・サイレンス)」や、世代間を超えてコミュニケーションを図る「Dialog with time(ダイアログ・ウィズ・タイム)」などが展開されていますので、日本でも新しいダイアログを展開したいです。

我々は「ダイアログ(対話)」をとても重要だと捉えています。今までのように、正解は1つでみんなが同じ正解を学ぶのではなく、個人の感性が大事になる時代です。
それぞれの人がどう感じているのか、どう考えているのかを考え、それをシェアすることでさらに理解を深めていく。物事の意味がより一層深まっていきますよ。
(取材日 2014年8月22日)

志村真介

志村真介さん
Dialog in the Dark Japan 代表
コンサルティングファームフェロー等を経て1999年からダイアログ・イン・ザ-ダークの日本開催を主宰。

1993年4月27日、日本経済新聞の小さな記事にて、ウィーンで開催されていた視覚障碍者によるアテンドのもと暗闇の中で対話をする「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と出会う。
感銘を受け、ドイツ人の発案者・アンドレアス・ハイネッケ氏に手紙を書き日本開催の承諾を得る。
1999年日本で初めて開催して以来、視覚障碍者の新しい雇用創出を実現すると共に、人が対等に楽しくコミュニケーションできるソーシャルプラットフォームとして世の中に提供し続けている。
2009年3月から東京外苑前で常設。既に体験者は14万人を超える。昨春からは積水ハウスとの共創プロジェクト「対話のある家」も大阪で展開中。

URL: http://www.dialoginthedark.com

【関連書籍のご紹介】
まっくらな中での対話 (講談社文庫)
 -茂木健一郎 with ダイアログ・イン・ザ・ダーク (著)

編集後記

生まれて初めて、1時間以上本当に何も見えない真っ暗闇での活動を経験した。
手を引かれて歩いても自分が2m歩いたのか5m歩いたのかすらわからない。人間は五感あるはずなのに、五感のうちの1つが失われただけでここまで何もできないものかと自分の無力さを思い知らされたようだった。
グローバル化が進む中で「多様性」という言葉は最近よく耳にする。しかし多様性と聞くと、個々の個性や国籍、肌の色や言語の違い等を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
志村さんとの対談の中で、一つ新たに学んだ多様性は「立場」だ。特定のシチュエーションに置かれたときの自分の立場。目が見える人が普段は視覚障害者を先導するのに対して、暗闇では逆に先導してもらう。または部下が上司を先導する。
立場が変わっただけで様々なことが違くみえ、行動も変わる。
情報を与えるのではなく、あえて情報を減らすことで逆に本当の自分と向き合うことができるようになるのだろう。
音や世代のギャップでのダイアログも是非体験してみたいものだ。

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