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これからは、日本一国では何ごとも解決しない。

平成25年度から、高校の新学習指導要領が年次進行で実施される。
「授業は英語で行うことを基本とする」という記述が物議をかもしたが、すぐれた実践事例も出そろってきた。
今度こそ、「英語が使える日本人」を育てることができるのか。
新学習指導要領の作成に携わった文部科学省初等中等教育局視学官の太田光春氏と、留学による語学研修プログラムの企画・普及の仕事をされている、オーストラリアビクトリア州政府 教育企画推進官の眞田まこと氏にうかがった。

日本の英語教育は間違っている?

天野:最初に眞田さんにお聞きしたいのですが、オーストラリアに留学されたときに、日本の英語教育に対して、大いに疑問を感じたとか。具体的にはどのようなことでしょうか。

眞田:もともと英語が好きで、社会人10年目に留学しました。
学生の頃の英語の成績もよかったですし、留学直前に韓国人と英語だけで話が随分盛り上がったこともあったので、それなりに自信があったのですが、行ってみると全く英語が聞き取れないし通じない。
語学学校に入って1カ月経っても先生の話す英語がよくわからず、トイレにこもって泣いていたこともありました(笑)。

太田:これまでは「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能のうち「読む」ことを中心にした授業が多かったので、「聞きとれない」、「話せない」のは仕方がないのでしょうね。

眞田:私が中高で英語を習ったのは、昭和50年代後半〜60年代初めでしたが、当時学校では「willと be going toは同じ」と習いました。
が実際には違う。
そのようなことが他にもありました。
そのとき感じたのは、日本の英語教育は、英語をよく理解せず、間違った理解のまま教えているのではないかということです。

太田:これまで高校の授業で多くみられたのは、文法訳読を基本とした授業ですよね。
英文を読むときは、一度日本語に訳してからその内容について考える。
英作文は一旦日本語で考えてからそれを英語に置き換える。
語彙を増やす場合も、文脈の中で覚えるのでなく、日本語との対比で覚える。
授業時間の大半が、日本語と英語の置き換えに費やされる。

眞田:そうですね。
でも、英語を習得するためには、よくわからなくても、英語を英語のままで理解しようとすることが大事だと思います。
無理に日本語に置き換えるから逆に難しくなる。
日本語にはない英語の表現や、英語に訳せない日本語の表現もあります。
英作文のときも、日本語を英訳するのではなく最初から英語で書かせるほうがいい。
最初は1〜2行しか書けないかもしれない。
それが3行になり5行になり、だんだん増えていけばいい。

間違いを指摘する授業が、生徒の自信をなくしてきた

太田:学習指導要領が求める「コミュニケーション能力の育成」ではなく、受験対策のための講義を中心とした知識注入型の授業があちこちで行われてきたことも、生徒の外国語学習者としての自信をなくさせる大きな要因となってきました。
授業やテストを通して、単語やイディオム、文法などの知識量を増加させることや、正確さを追求するあまり、多くの生徒が学習者として自信を失ってしまったり、学校の英語教育に期待しなくなったりしてしまいました。
その結果、本来身につけられるものも身につけられなくなってしまったのです。
例えば、ヒアリングでも、英文を1、2回聞いて聴き取れなかったらダメという指導をするんです。
でも実際の会話では、1回聞いて聞き取れなかったら、「I beg your pardon?」「Would you speak more slowly?」と聞き返したり、依頼したり、「You mean・・・?」と確認したりしながら理解を進めればよいわけで、聞き取れなかったらそれを乗り越える術を知っていることの方がずっと大切なんです。

眞田:たとえばある人が仰ったのですが、別の方が自己紹介のときに、「I'm ○○」という言い方をしたのを聞いて、日本の学校だけで英語を習ったその人は「え、My name is ○○じゃなくていいの?」と驚いたそうです。
でも、実際にはどっちを使っても構わないんです。

太田:本当はいろいろな表現があっていいのに、一つの正解しか許されない。
授業が、生徒の間違いを指摘する場になっているから、生徒が自信をなくしてしまう。
教室が、間違ってもいいからどんどん英語で情報や考えを伝える場、risk-takingのできる場にならなければ言語の習得はうまくできません。

天野:以前テレビで、あるプロスポーツ選手が、海外のメディアからのインタビューに応えているのを見たのですが、大変上手に英語でやりとりをしていました。
発音が日本語的だったり、文法的な間違いは若干ありましたが、臆することなくちゃんと会話ができていてすごいなと思いました。
が、ネット上では「調子に乗っている」「文法が間違っている」とバッシングされていて、驚きました。
これも、「間違いを指摘する」教育しか受けてこなかったからではないかと今思いました。

太田:彼らの、失敗を恐れず英語を使って積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度は賞賛されるべきものであって、非難されるべきものではありません。
バッシングが事実だとすれば、とても残念なことですね。

新指導要領のポイントは

天野:日本では40人学級が一般的ですが、語学習得には少人数制のほうが効果的だという声もあります。
このことについてはどう思われますか?

太田:少人数制を実現するためには、法改正や予算措置が必要です。
目の前に生徒がいるのに、それらが実現するまでは良い授業はあきらめてくださいと言うわけにはいきません。
今の状況でやれることを最善を尽くしてやるという考え方をしないと、目の前の生徒たちが困ってしまいます。
それに、40人いるからこそできることもあります。
例えば、友だちの数だけ多様な考え方にふれるチャンスがあります。
自分とは異なる考え方をする友だちと意見を交換したり、自分の考えを理解してもらおうとあれやこれや手を尽くしたりする。
こういう活動を通じて、Critical thinking(批判的思考)、Decision-making(意思決定)、Creative thinking (創造的思考)、Logical thinking(論理的思考)の能力が身につく。
これは、新学習指導要領でも重要視されている、「思考力、判断力、表現力、その他の能力をはぐくむ」ということにも通じるものです。

天野:小学校の外国語活動はどう評価されますか?

太田:すごくいい結果が出ていると思いますよ。
子どもたちには多少わからないことがあっても聞き続けようとする姿勢、英語を日本語に置き換えたりせずに聞いたまま理解しようとする姿勢ができてきていますね。
つまり、「あいまいさ」に耐えることができるようになってきているんです。
これは、英語によるコミュニケーション能力を身につける上で大変重要な素地なので、中学でこの流れが断ち切られないようにすることが大事ですね。
また、子どもたちは小学校の外国語活動の中でたくさんほめられて、英語を学ぶことは楽しいことだと思っていますから、中学校で急に間違いを指摘することを中心にする授業をして、このポジティブな気持ちを損なわないように願いたいですね。

第2回へ続く

(2011年8月31日取材)

太田光春さん

太田光春さん
文部科学省初等中等教育局視学官。日本福祉大学客員教授。 愛知県公立学校教員、愛知県総合教育センター研究指導主事、文部科学省教科調査官・国立教育政策研究所教育課程調査官を経て現職。新学習指導要領の作成にも携わった。 日課は、出勤前のフルート演奏30分、約1時間のウォーキング、腹筋・背筋100回、3時間英語を聞くこと。その他、年間約15000ページ、ペーパーバックスを読む。 テニス歴20年以上、スキー歴20年以上、剣道2段。メタボ改善奮闘中。

眞田まことさん

眞田まことさん
オーストラリアビクトリア州政府 教育企画推進官。 社会人10年目に、オーストラリアに留学。語学学校を経てカレッジを卒業。帰国後に留学センターを起業し、その後再渡豪してメルボルンの現地留学エージェントとしてビクトリア州の教育機関を中心に小学校から大学院まですべてのセクターの教育機関と働く。ビクトリア州の姉妹都市、愛知県で開催された愛知万博ではビクトリア州教育省の特別プロジェクトにも携わり、2006年の帰国後にビクトリア州政府東京オフィスで教育・訓練のPRを中心とした現職に就き、日本・韓国・台湾を担当。オーストラリアでつけた贅肉16.5キロの減量に成功、2年経った現在も体重を維持している。

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