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今度こそ変わらなきゃ!本気の!英語改革

平成25年度から、高校の新学習指導要領が年次進行で実施される。
「授業は英語で行うことを基本とする」という記述が物議をかもしたが、すぐれた実践事例も出そろってきた。
今度こそ、「英語が使える日本人」を育てることができるのか。
新学習指導要領の作成に携わった文部科学省初等中等教育局視学官の太田光春氏と、留学による語学研修プログラムの企画・普及の仕事をされている、オーストラリアビクトリア州政府 教育企画推進官の眞田まこと氏にうかがった。

第1回はこちら »

「授業は英語で行う」ことの真意とは

天野:新学習指導要領の「授業は英語で行うことを基本とする」という記述には批判も随分あったのではないでしょうか。

太田:一部の人たちの中に学習指導要領が先生方に、50分間、ネイティブみたいに流暢な英語を話すことを要求していると誤解があったからでしょうね。
真意は、生徒に言語活動をさせることにあるのです。
学習の主体は生徒ですから、授業では生徒が英語にふれる機会を充実させなければなりません。
その際、教師に求められているのは、生徒の理解の程度に応じた英語を使うことです。

天野:ALTにまかせっきりではなく、やはり先生が教えることが大事なのですね?

太田:まず、外国語教育の目標は何でしょうか。
コミュニケーション能力の育成です。
つまり、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能を使って伝え合う能力を身につけさせることです。
日本は、英語にふれずに暮らせる国です。言い換えれば、生徒が英語にふれることのできる場所は教室しかありません。
その教室で、できるだけ英語にふれさせるためには、教師が英語で授業をすることが一番自然ではないでしょうか。
私は、語学教育は水泳と同じだと思っています。
泳げない人に教科書でいくら教えても泳げるようにはなりません。
まずは水に入り、水に慣れ、とにかく泳げるようになること。
その上で、次の段階として、もっと早く、もっときれいに泳ぐにはどうするかを指導する。
英語も同じで、たっぷりと英語にふれる環境をつくることがまず大事なのです。
教科書を教えるのか、教科書で教えるのか、という議論がありますが「教科書を」教えるだけでは英語は身につかない。
教科書だけではふれる英語の量が、全然足りないのです。
「教科書で」どのような力を身につけさせるのか、教科書の内容を素材にして、どのような言語活動をさせるのか。
もし教科書の内容では生徒の興味を引くことができないと感じるなら、どうしたら興味を喚起できるか考えてほしい。
教師は、シェフみたいなものです。
一流のシェフは素材が悪いから美味しい料理が作れないとは言わない。
ありふれた素材から美味しい料理を作る、それがシェフの腕の見せ所です。
教師も、教科書の内容を素材にして、生徒が目を輝かせる、学ぶ喜びが体験できる授業をする工夫をしてほしい。
それができれば、生徒は自ら学ぶようになります。

天野:アルファベットも書けない生徒たちに英語で教えるのか、という批判もあったそうですね。

太田:アルファベットが書けないなら書けるようにしてあげてほしい。
その子たちがつまづいたところにもどって、それを克服して自信を与えてから次のステップにいけばいい。
できないからといって切り捨てたらアウトです。

天野:もともと分かりづらい文法を英語で教えたらますますわからなくなるのでは、という批判もよく耳にします。

太田:ならば、説明しなくてもいい。
日本語で説明を書いたハンドアウトを「Please read this handout.」と言って生徒に渡し、読ませてもいいんです。
実は、「英語で授業をする」ことは、英語の教師が英語の教師としてのアイデンティティを回復する良い機会になると思うんです。
これまでに、「英語関係の仕事で、英語ができなくてもできるのは中・高の英語教師だ」という批判が一部にありました。
だから、そうじゃない、できるんだということをぜひ証明しようじゃありませんか。

英語で授業をすることに慣れていないだけ

天野:しかし、実際に英語で授業をするとなると、研修などで、先生方の英語力のブラッシュアップをすることも必要ではないでしょうか。

太田:実は2003年に「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」が発表され、基本的に全国各地で10日間の研修が行われました。
その時にわかったことは、日本の教員は大変優秀であるということ。潜在能力は高いということです。
ただ、英語で授業を行うことに慣れていないのは事実です。
私は、生徒のために英語を使うことを心掛ければ、教師は授業を通してご自分の英語力を高めることができると考えています。
高校の英語教員は平均週16時間の授業を受け持ちます。
これらの授業を「英語で行うことを基本とする」ことになれば、教師の英語力は飛躍的に向上すると思います。
実際、先進的な学校ではそのような効果が現れています。
はっきり言えることは、教師の英語力が向上しないような授業は生徒のためにもならないということです。
生徒が英語にふれる機会を提供していないということですから。
今年度に入って、全国各地で新学習指導要領の趣旨を先取りした授業が展開されているとの声がたくさん届いています。
学年単位、学校単位での取組を行っている学校も数多くあるとのことです。
経過は上々で、授業中の生徒の顔が上がり、生徒も教師も今まで以上に授業が待ち遠しくなったという報告も届いています。
生徒たちに少しでも良い授業を提供しようとする先生方の熱意や前向きな姿に、安心と感動を覚えています。
とりわけ、被災地としてのご苦労があるにもかかわらず宮城県では教育委員会のリーダーシップのもと、県をあげて積極的かつ意欲的に英語の授業改善に取り組んでおられます。
まったく頭が下がります。
また、平成25年度に向けて文部科学省では、先生方の参考に資するために授業の映像をDVDに収録し、全国の高校に配布しました。
これは未だかつてなかったことです。
ぜひ授業づくりの参考にしていただきたいと思います。

眞田:私も、日本の教育はすばらしいと思いますし、先生方も力があると思います。
でも、その力を出せていないのは、英語を使う経験や、使うことによる成功体験が足りないからだと思います。
そのためにも、私はぜひ先生方に短期長期に関わらず海外研修をおススメしたいですね。
英語を学ぶだけなら、日本でもできますが、海外に行って、そこで生活し、外国人とふれあう機会を持つことも必要だと思います。
初めて海外で生活すると、新居の電気の開設一つどうしたらいいかわからない。
それを一つひとつクリアして、あれもできた、これもできた、と成功体験を積んでいくことで、自信がつき、本来持っている力を活かすことができると思うのです。
また、英語圏の人の話すきれいな英語だけが英語ではないと知ることも大事です。
アジアや南米、ヨーロッパなどいろいろな国の人が話す英語にふれてみるといい。
日本人の発音は悪いとよく言われますが、中国人やインド人の英語もかなりアクセントが強くて聞き取りにくい。
いかなる言語にもノンネイティブには発音し難い音があるので、日本人がLとRの発音が苦手なように、他の国の人にも苦手な発音があります。
でも、伝わればいいのであって、日本人だけが劣等感を感じる必要などない。
それを知るだけでも価値があります。

(第3回へ続く)

(2011年8月31日取材)

太田光春さん

太田光春さん
文部科学省初等中等教育局視学官。日本福祉大学客員教授。 愛知県公立学校教員、愛知県総合教育センター研究指導主事、文部科学省教科調査官・国立教育政策研究所教育課程調査官を経て現職。新学習指導要領の作成にも携わった。 日課は、出勤前のフルート演奏30分、約1時間のウォーキング、腹筋・背筋100回、3時間英語を聞くこと。その他、年間約15000ページ、ペーパーバックスを読む。 テニス歴20年以上、スキー歴20年以上、剣道2段。メタボ改善奮闘中。

眞田まことさん

眞田まことさん
オーストラリアビクトリア州政府 教育企画推進官。 社会人10年目に、オーストラリアに留学。語学学校を経てカレッジを卒業。帰国後に留学センターを起業し、その後再渡豪してメルボルンの現地留学エージェントとしてビクトリア州の教育機関を中心に小学校から大学院まですべてのセクターの教育機関と働く。ビクトリア州の姉妹都市、愛知県で開催された愛知万博ではビクトリア州教育省の特別プロジェクトにも携わり、2006年の帰国後にビクトリア州政府東京オフィスで教育・訓練のPRを中心とした現職に就き、日本・韓国・台湾を担当。オーストラリアでつけた贅肉16.5キロの減量に成功、2年経った現在も体重を維持している。

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