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国際力と就職力 グローバル時代に求められる人材とは。

グローバル化の波は、ビジネスの構造を変え、企業の求める人材は明らかに変化している。選ばれる人材になるにはどうすればいいのか?
人材採用コンサルティングの大手、株式会社DISCOの綿井伸氏に、キンジロー編集長が問う!

日本人の採用にこだわらない企業が増えてくる

天野:グローバル化の波を受けて、企業の採用状況はどう変わってきているのでしょうか。
就職活動にあたって、語学力や海外経験のある人材のほうが有利といった傾向はあるのでしょうか?

綿井:企業が欲しい人材像というのは、ここ数年で大きくは変わっていないと思います。
海外経験があるなしに関わらず、コミュニケーション能力は常にTOPです。
ところが、それ以下になると、留学経験がある学生に対しては「バイタリティ」が、国内生は「基礎学力」が上位に来る。
「バイタリティ」とは何か。
海外に留学すると直面するさまざまな問題に対し自分で立ち向かい、切り開いていくことを余儀なくされる。
そういう生活の中で身に付けた、行動力や実行力のことではないかと思います。
ですから、海外に行っても日本人とばかり固まっていたような人には、企業は全く魅力を感じない。

天野:今、中国やインドを中心にアジア諸国の成長が著しいですが、そのような中、日本企業ではどんな変化が起こっていますか?

綿井:日本の企業のビジネスの構造が変わってきているのは事実です。
たとえば、海外での生産比率や、海外での売上比率が上がり、ビジネスがグローバル化している。
特に近年では、中国で安くものを作って日本で売る、というような、アジアを生産拠点としてとらえた上でのグローバル化ではなく、今、中国は大変勢いがありますから、ビジネスマーケットとして成立するようになってきた。
そのマーケットに入り込んで、競争していくためには、企業自体も国際化をしなければならなくなっている。
そこで、欧米はもちろんですが、アジアングローバルというような、アジアのマーケットで通用するような人材へのニーズが特に増えているのです。
具体的には、一つは、海外留学経験があり語学や異文化にたけていて、アジアのマーケットに興味がある日本人。
もうひとつは、必ずしも日本人でなくてもいい。
現地にいる人で、日本や自分たちのビジネスに関心のある人を採用すればいい、そういう考え方をする企業も出てきています。

語学力よりコミュニケートしようという意思が大事

天野:企業自体も国際化しなければ、というお話がありましたが、公用語を英語にするといった企業も出てきていますね。

綿井:「グローバル採用」という言い方をしますが、今の企業は、必ずしも日本国内だけで探すのではなく、世界中から優秀な人材を探せばいい、という考え方になってきています。
その時に、何がネックになるかというと、「日本語」なのです。
世界中から人材を集めるならば、管理する側の日本も、日本語にこだわらず、世界の公用語である英語を使うようにするべきではないか。
そうしないと、国際社会のビジネスに勝ち抜いていけないのでは、と考える企業は、公用語を英語にする方針を今年7月に発表した楽天のように、増えていくのではないでしょうか。
一方、学生の方も、語学力とか海外経験をある程度持っていないと、10年後にはいろいろなチャンスを逃してしまうというリスクはあると思います。

天野:では、語学力があればやはり有利だと。

綿井:確かに語学力があればそれに越したことはありませんが、一方で企業からよく聞くのは、TOEICの点はどうでもいいということ。
オフィスの中で外国人の上司とすれ違っても臆せずに声をかけたり、ちょっとした会話ができればそれでいい。
グローバル時代に求められるのは、文法を間違えないことよりも、相手とコミュニケーションをする意思や、言語の垣根を飛び越えていけるようなボーダレスなマインドを持っているかどうか。
それは、国内海外だけでなく、社内の人間関係やお客様とのリレーションシップでも同じです。
たとえ留学する機会がなかったとしても、そういうマインドを持とうと努力することは決して無駄ではないと思います。

世界的にも特殊な日本の採用事情

天野:新卒の一斉採用というのは日本独特のシステムだと聞きますが、他国の状況はどうでしょうか。

綿井:確かに、日本のように、10月1日には就職サイトが立ち上がり、年明けには就職セミナーが開催され、4月ごろから内定が出て、翌4月には一斉に入社、新人研修、といった流れは日本独特のものです。
グローバルに見ると、卒業時もバラバラですし、卒業時に就職先が決まっていることは稀です。
アメリカの場合は、新卒採用よりも、中途採用が中心なのです。
留学生の場合、OPT(注)を利用して働いて、そこでチャンスをつかんで正規採用になるというステップが一般的ではないでしょうか。
でも、実際はビザが取れないなどの問題があって、日本に帰国せざるを得ない。
そうなると、国内の大学生よりも就職活動期間が限られて不利というのが現実かも知れません。

注)OPT(オプショナルプラクティカルトレーニング)=学校で学んだことを、現実社会で実践するために、学生VISAを持っている生徒に働く許可を与えるもの。在学中、あるいは、卒業後に最長12ヶ月間働くことが可能。職種は専攻科目に関係のある仕事に限られる。

大学のランクは就職にどう影響するのか

天野:日本の教育についてご意見をお聞きしたいのですが、今学校で教えていることは、企業のニーズにマッチしているのでしょうか。

綿井:個人的な感想ですが、欧米では、高等教育の進路を選ぶときに、自分が将来こうなりたいからこの大学へ行くという目的が、早くから明確なように思います。
ところが、日本では大学がゴールのようになっていて、入学した時点では、将来のイメージが描けていない。
3年、4年になってあわてて就職サイトを見て、企業に片っ端からエントリーシートを送る。
これではいけないということで、大学側もキャリア教育に力を入れるようになっている。
学校で学んだことがどう社会とつながるのか、職業意識の醸成と言いましょうか、そういうことを意識するようになっているし、そうしなければ大学としての生き残りも危ない時代になっていると思います。

天野:企業側が、新卒者を採用するときに、大学のブランドやランクを重視するという傾向はやはりあるのでしょうか。

綿井:企業が求める人材の要件項目として、「基礎学力」は上位を占めていますから、このレベルの大学ならそこそこ基礎学力もあるだろう、といった目安にはなっていると思います。
が、むしろ企業は、幅広い大学、学部から、キラっと光る人材が採用できればそれに越したことはないし、そのほうが望ましいという考え方を持っています。
90年代に、ソニーさんが応募書類で大学名を問わないという「オープンエントリー制度」を採用したときには大変話題になりました。
以来、この傾向は強くなっているのではないでしょうか。

大切なのは何を経験し、そこから何を学んだか

天野:今後の、企業の採用状況はどうなっていくと思いますか?相変わらず、就職戦線は厳しいのでしょうか。

綿井:既に言われていることですが、量から質へと変わっていくと思います。
今年の就職戦線では、明らかに採用する側の選考基準は上がっています。
その結果が、学生の2極化を生んでいます。
つまり、内定を複数もらう学生がいる一方、いくら就職活動をしても内定がもらえない学生がいる。
不況時には必ず2極化が起こるものですが、今回のがちょっと違うのは、企業側が学生の「質」を今まで以上に厳しく問うようになったということです。
ですから、「質」がいい学生がいないなら、採用予定人数に達しなくても採用を打ち切るという企業も出てくるでしょう。
では「質」とはどういうことか。
それは、既に言ったように、基礎学力、コミュニケーション能力、バイタリティ、熱意といったことかと思います。

天野:では、学生は学生時代に何をするべきなのでしょうか。

綿井:学生のエントリーシートを見ると、アルバイトのリーダーをしていた、とかクラブ活動の主将をしていたとか、みな、判で押したように同じことを書いてきます。
そういうことよりも、大学生ですから、大学で何を学んだか、何を経験したか。
そこから何を学んで、自分はどう変わったか。
そうやって得たことを、社会に出てどう生かすのか、ということを考えながら、学生生活を送ることが重要です。
楽しむなとか、まじめにやれ、ということではありません。
学生生活は楽しんでいいんです。
でも、そこから何かを学ぼうという姿勢、そして、学生生活を振り返ったときに自分がどういうふうに成長してきたかを棚卸すること。
この二つをきちっと持っていることで、就職戦線で優位に立つことができるのではないでしょうか。

(2010年7月26日取材)

綿井伸さん

綿井伸さん
株式会社ディスコ(http://www.disc.co.jp/
グローバルキャリア推進プロジェクトプロジェクトマネージャー

[Vol.07 2010秋号掲載]

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