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【連載コラム】

【連載7】スピーチトレーニングの実際(2)

2014.12.10

■リエゾンの実践練習

まず、聞き手、つまり聴衆と一緒にいることを実感することから、練習から始めます。
スピーチで最も大切なのは、聞き手、すなわち聴衆の共感を得ることです。英語で挨拶を練習するのでもよいのですが、英語でのスピーチが初めてというケースも考慮して、まずは、日本語での挨拶「こんにちは!」で練習をします。これにより、人前で話すことへの抵抗感を減らし、英語を話すことへの準備が可能になります(生徒がすでに英語でのスピーチに習熟している場合には、"Hello, everyone!"で練習します)。
ここは、スピーチをするうえでの気持ちを整え、かつ聞き手とのリエゾン(関係性)を構築するうえで非常に重要なパート、つまりは「つかみ」の練習です。通常ならば、普通にスピーチの練習を始めればよいのですが、よりスピーチの感覚、とくに聞き手とのつながり(リエゾン)を一瞬で構築する感覚をつかんでもらうために、あえて、日本語で練習するのです。

人前で話をする際には、話すのが精一杯という心理状態で自分の番を迎えることがほとんどです。人前で楽に話すために、さらには心理的なバリアを取って自分のままで語るために、あえて日本語で練習をします。その際には、1限目で説明した、自分の心・気持ちを整えることを思い出してもらい、不安や懸念を払しょくしたら、そこで初めて挨拶をします。
この過程を体験することは、その後、どのような場面でも、きちんと自分の心を整え、しっかりと自分の主張を聞き手に受け取ってもらえる状態で話すための基礎をつくることになります。

聞き手に受け入れてもらうためには、自分の状態をまず整え、次に、聞き手との間に人間関係をつくろうという意図を持って、言葉を発しなければなりません。このことが、スピーチ全体のデリバリーを高めることにつながるのです。

時間に余裕がある場合は、まず日本語から始めることで、気持ちの部分を整え、聴衆との人間関係をつくる感覚を体感し、次に、慣れない英語を使って挨拶をし、日本語と同じように、英語でも人間関係をつくる、というステップを踏みます。これによって、その後の本番のスピーチが、格段にやりやすくなるのです。

■英語でのミニスピーチ練習
リエゾンの練習を日本語で行った後は、英語でのミニスピーチの練習をします。ミニスピーチは、アメリカの小中学校・高校で実際に頻繁に実施されている、Show and Tellの形式で行います。

 自分の持ち物や現在使っている物を何か一つ、学校に持ってきてよい物の範囲で持参するように、あらかじめアドバイスしておきます。また、アメリカでのShow and Tellがどのようなものかを、実際にデモンストレーションして理解してもらいます(クラスに帰国子女の生徒がいるなら、実際にデモンストレーションをやってもらえると、よりよく理解させられると思います。アメリカでは、よく即興で実践するように求められるようです)。
そして、たとえば以下のように身近な物について英語で紹介してもらいます。英語の一般的なフォーマットに沿った、簡単な内容のスピーチです。

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Hello, everyone.

My name is XXXX.

Today, I would like to talk about my pencil case.

I bought this pencil case two years ago, when I entered this junior high.
I like this pencil case because it is very useful.

For example,
I can open this with one hand.

Secondly,
it can stand alone on the desk.

Thirdly,
it is very small and easy to carry around.

This is my favorite piece of stationery, and I would like to keep using it for as long as possible.

Thank you!
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■習熟のためのステップ
また、事前に準備するように宿題として提示することもできます。デモと例文を示して、それを基に簡単なShow and Tellを準備してもらえばより効果的でしょう。
ただ、これも一気に進めるのは難しい場合があります。このスピーチ・トレーニングによって、スピーチが嫌いになっては元も子もありませんから、まずは好きになってもらう、そのためには「得意だ」「できる!」と感じてもらう必要があるのです。
そこで、最初の日本語での「こんにちは!」の練習に続いて、英語での挨拶の練習も行います。"Hello!"をきちんと聴衆に届ける(deliverする)ことを意識して一人ひとりに挨拶してもらい、一巡させます。

ここでも、話し出すタイミング――ときに、まだ壇上に立たないうちに話し始めるケースがあったりする――や、ポケットに手を入れて話すようなattitudeの問題など、気が付いたところをきちんと指導し、次の人からきちんとできるようにしていきます。
日ごろの授業での経験から、この子なら指導を入れても大丈夫、という生徒に限ってフィードバックを入れるのも一つの方法です。これにより、ほかの人は他山の石として学び、自分の番では気を付けて実践することができるようになるからです。

■話し方の注意事項
また、練習を始める前、あるいは途中での、全体的なフィードバックとして有効なのは、「根拠のない自信」と「斜め45度」というアドバイスです。
まず「根拠のない自信」とは、欧米文化の一つとして、とにもかくにも人前で話をする場合には自信を持って話す必要がある、ということです。日本でのように、へりくだって「つまらない話ですが」とか「お耳汚しで」などというattitudeは、欧米ではかえって聞き手に対して失礼である、という説明です。

すこし上から目線、というのも大事な要素と伝えます。すくなくとも、聞き手の時間を使って話をするわけですから、その時間が無駄ではない、ということを強く印象付けなければならないということです。ですから、たとえ自信がなくても、自信たっぷりに話すことが、聞き手への礼儀の一つだということです。

また、自信を持って話をする以上、若干「上から目線」になるというわけです。相手にとって重要な情報を伝えている、自分もこのことを重要であると確信している――そういう思いを込めたスピーチを、自分が所有している日常的な物の紹介で実践する、このShow and Tellは、実に有効な練習手段であると言えます。

もう一つの「斜め45度」は、スピーチでの定石である声の出し方の基本アドバイスです。これは日本語でも有効ですが、特に英語の場合、のどをしっかり開いて発音することが重要で、かつ、会場全体に話し声が届くようにする必要があります。そこで、斜め45度上に向けて胸を張って声を出すようにすると、会場全体に声を響かせることができるというアドバイスです。

スピーチの場では、緊張から思わず下を向いてしまい、声が小さくなりがちです。この「斜め45度」という形から入るアドバイスは、分かりやすく有効性の高いものです。
さらには、部屋の一番後ろの席に座っている人の頭に、自分の声が放物線を描いて落ちるように話す、と説明すると、声の出し方をより具体的にイメージしやすくなると言えます。もし時間が許せば、3時間程度をかけて、これらの事項を徹底させ、もう少し長い英文を使ったトレーニングをすることも可能であると思います。

スピーチは決して難しいものではなく、むしろ慣れ(場数)とフォーマット(型)なのだということを、実際の練習を通じて実感することで、生徒たちが今後の英語でのスピーチに積極的に取り組む基盤をつくることができれば、授業としてのスピーチ・トレーニングは成功と言えるでしょう。実際、このトレーニングを受けた学年に、翌年に新しく来たALTが、話すことへの積極性の点で、とても驚いていました。
ぜひ、参考にしていただければ幸いです。

記事提供:先生のための語学教材活用ルーム「Lesson Library
執筆:竹村和浩さん TLL言語研究所 代表

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