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先生方が頑張っている限り、日本の教育は大丈夫!

高等教育機関や企業向けの英語教材の制作・販売などで知られる、株式会社 マクミラン ランゲージハウス 代表取締役の小野春夫氏に、日本の留学事情、英語教育について意見を伺った!

モチベーションがあれば人は頑張れる

天野:2004年以降、日本から海外に留学する人が、毎年15%ずつの勢いで減少しています。
10年前には約14万人いた留学者数は今や約8万人にまで落ち込んでいる。
中でもアメリカへの留学生の減少率が一番大きい。
このような状況をどうお考えですか。

小野:少子化とか不況とか複合的な問題があると思いますが、一つ言えるのは、海外に行きたいというモチベーションが下がっていることが大きいのではないでしょうか。
ひところ、英会話学校が乱立し、英会話ブームが起こりました。
英語に興味がある、海外に行きたい、というモチベーションを多くの人が持っていたのだと思います。
しかし、今や海外旅行は当たり前ですし、そんなに無理して英会話をマスターしなくても、海外に行くという望みはすでにかなえられてしまった。

天野:中学、高校、大学も含めると10年も英語を習うのに英会話ができないということから、英会話学校に通う人が増えたとも考えられます。
しかし、本来は学校教育の中で英語が話せるようになるべきです。
韓国でも、英語教育に力を入れて、学校教育の中で会話ができるレベルにまで到達していると聞きます。
日本の英語教育にはいろいろ問題があると思うのですが、一つには、日本では英語教授法がしっかり確立していないことがあるのではないでしょうか。
ベネッセの調査によると、中学1年の生徒の8割が、「英語は楽しい」と答えるのに、中学卒業時には8割が「英語が嫌い」と答えるという。
学校教育が英語嫌いの生徒を生み出しているのではないかという気がしてなりません。

小野:受験という壁が立ちはだかっていることも大きいでしょうね。
しかし受験して、いい高校、いい大学に入ったらその先何があるのか。
英語を学べばその先に何があるのか、教師がきちんと目標を示してあげなければ、モチベーションは上がらないと思います。
苦労して高校に入っても、また大学に入るために受験英語をやらなければならないのかと思うと、英語が嫌いになるのも無理はありません。
人は、モチベーションを持ちさえすれば、強いものです。
マクミラン ランゲージハウスでは、主に大学や社会人を対象に教材を提供しています。
最近は、一般教養としての英語というよりは、観光、医学、科学、経済学といった、特殊な英語に対するニーズが高まっていると感じます。
このような教材を求める人たちは、気軽に英会話を学びたいという人に比べると数は少ないですが、高い目的意識を持ち、内容の濃い勉強を厭わない。この人たちのように、自分の進みたい方向性を見出すことさえできれば、迷いなく英語学習をやっていけると思います。
先程、韓国の英語教育の話が出ましたが、おそらくそれは、語学としての英語を教えるのではなく、英語で、たとえば経済や科学を学ぶ、あるいは語り合うということをしているのだと思います。
別にそんなことは母国語でやればいいではないかとおっしゃる人はいるかもしれません。
しかし、もしかしたら、英語で学ぶことによって、自分の感性とは違う感性が磨かれるかもしれません。
なぜなら、言語とは、文化の象徴だからです。
全く違う文化を背負った言語で学ぶことにより、何か違う角度で勉強ができるはずです。

英語を学べばその先に何があるのかを示す必要がある

天野:小中高等学校で相次いで新学習指導要領が施行されますが、これについてはどう思われますか?

小野:その件については私が口をはさむ余地はありません。ただ、何を目的にするかは大事です。
新学習指導要領では、コミュニケーションに重きがおかれていますが、英語のコミュニケーションだけでなく、日本語でもきちんと豊かなコミュニケーションができているかをきちんと考えるべきです。
ある商社の人事の人に聞いたのですが、その商社には海外志向の強い人が多く、TOEIC(R)スコアが900点という人はめずらしくない。
その人たちの英語力を分析したら、こんなことがわかったそうです。
読む、聞く能力は非常に高いが、書くこと、話すことは少し劣る。
つまり、インプットは得意だけれどアウトプットは苦手なのです。
コミュニケーションとは、相手の言うことをインプットし、自分の言いたいことをアウトプットすること。
インプットだけではコミュニケーションは成立しません。
これは英語に限ったことではありません。
企業に入ると、インプットだけでは仕事になりません。
提案や報告、プレゼンなど様々な面でアウトプットが求められます。
そこが最終目的になるのなら、学校教育の中で、英語力だけでなく、いかに報告し、いかにプレゼンするかということも学ばないといけないのではないでしょうか

天野:企業で求められる能力ということでは、最近グローバル人材という言葉をよく耳にしますが、小野さんはグローバル人材をどう定義付けられますか?

小野:まず、言えることは、英語ができるから仕事ができるということはあり得ないということです。
以前、大学を卒業して間もない人が、求人に応募してきました。
その人は「私はTOEIC(R)900点持っています。実務経験はありませんが、TOEIC(R)900点あるから必ず御社の事業に貢献できます」と言うのです。
非常に意欲的な態度はいいのですが、私はこう言いました「英語は900点でも、仕事のレベルはTOEIC(R)で言うと300点かもしれませんよ。あなたは300点と900点のギャップをどう埋めるつもりなのですか」と。
かたや、知人の輸入代理店の社長は英語をほとんどしゃべりません。
おそらく、知っている単語は100単語くらいしかない。
しかし彼は、「Discount please!」だけで海外の取引先と交渉するのです。
彼の場合、英語のレベルは300点かもしれませんが、仕事レベルは900点です。
そのギャップをどうするか。
彼は、知っている単語の中から何を選べばいいかを知っていて、的確にチョイスすることでこのギャップを埋めているのです。
グローバル人材とはそういうものではないでしょうか。
自分の軸になっているものが何かをしっかりわかっていることが大事です。
そこに言語がついてくる。言語が先にあっても、軸足がなければ言語は使えない。

120%の努力が求められる環境が、英語力を伸ばす

天野:ユニクロなど企業の「社内公用語の英語化」の動きをどう思いますか?

小野:いいことだと思います。
これからは日本だけですべてを完結することはできないですし、そういう状況になると人は努力できるものだからです。
私も、英語が母国語ではないので、ネイティブの人たちと仕事をする場合、どうしてもハンディキャップがあります。
理解度、発言量、話すスピード、どれをとっても2割くらい、日本語でやるより劣るかもしれない。
しかし、それを克服しないと彼らと対等に付き合えないと思うと、「彼らが100%努力するなら、私は120%努力しよう」と思います。
社内公用語が英語になることで、その人の仕事のスピードが8割になるかもしれない。
しかし会社はそれを許さないでしょう。
すると、その人は2割余計に努力しないといけない。
それがわかっているかどうかは、すごく重要です。

天野:学校の英語教育に期待することはどんなことでしょうか?

小野:世の中の風潮として、実践的な英語力が求められていますが、私は、学問としての英語も否定しません。
むしろ、ますます追求するべきだと思っています。
私は長くイギリスの出版社にいますが、昔は今よりも、英文学の本や学術的な本に触れる機会が多かったように思います。
今は、大学の英文科も減っています。
シェイクスピアの英語を勉強する人が少なくなった。
これはとても残念なことです。

天野:学校の先生へのメッセージはありますか?

小野:先日奈良に行き、全英連のセミナーを拝見しました。
その時に、学校の先生方は英語の教授法や教育法について相当真剣に研究なさっていると感じました。
いかに教えるかは、大事なポイントです。
それを先生方が考え続ける限り、日本の教育は大丈夫です。
出版社が作った模試や業者テスト、マニュアルを使って授業をやるだけではだめです。
いろいろな教材をそのまま使うのではなく、現場の生徒を見て、生徒に合わせてカスタマイズすることが大事です。
マクミラン ランゲージハウスでは、製品としての教材を提供するだけでなく、教材を採用してくださった先生方に、web上で大変充実したサポートサービスを無償で提供しています。
ぜひ頻繁にアクセスして活用していただきたい。
先生方とインタラクティブな関係をもちながら、英語教育の質の向上に貢献していきたいと思っています。

(2011年12月20日取材)

小野春夫さん

小野春夫さん
株式会社マクミラン ランゲージハウス 代表取締役。英国ペンギン・ブックス社の日本法人・ペンギン・ブックス・ジャパン株式会社のスタートアップ、代表取締役として同社を経営。その後、英国系情報サービス会社の日本支社をスタートアップし日本支社長 (韓国代表兼務) を務める。更に、日系語学教育出版社でオンラインプロジェクトの立ち上げに関わったのち、2007年2月に現職:株式会社マクミラン ランゲージハウス代表取締役に着任。一貫して英国系・英語系企業に身を置いて33年目になる。

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