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多国籍の環境で教える 自力学習者を育てるクラス作り

多国籍の外国人留学生を受け入れる日本語学校。その日本語学校の現状から見る日本の国際化、そして世界のグローバル人材とは。
カイ日本語スクール代表 山本弘子氏に伺った。

技術立国としての日本を世界にアピール

天野:カイ日本語スクールは25年の歴史のある日本語学校ですが、25年の間に留学生に変化などありましたでしょうか?

山本:昨年は東日本大震災の影響がありましたが、全体的な流れとしては、来日する目的が大きく変わってきています。
私がカイ日本語スクールを始めた1987年頃は、高度経済成長と日本の周辺国の自由化などの影響で、来日する外国人が大幅に増えた時期でした。
あの頃は「Japan as No.1」というベストセラー本に象徴される通り、日本の経済成長が世界のモデルとなっていた時代で、日本の経済や技術力に惹かれ、それらを学びに来ている人が多くいました。
その分、不法労働などの問題も起こりましたが。

天野:グローバル30の動きなど、近年のほうが留学生受入れが活発になっていると思うのですが。

山本:受入れ側の行政としては、今回はメンツではなく人口減少(引いては学生減少)のため、必要に迫られて活発にならざるを得ないというのが本音だと思います。
以前と違い、日本に来る学生のほとんどがアニメなど日本の文化に興味のあるいわゆる「日本ファン」です。
しかし、企業が求めているのはグローバル人材であり、そこに、ミスマッチが起こっています。
一方の大学も、文科省も、まだまだ少子化による学生減少の穴埋めとして留学生を見ている感は否めません。
日本ファンで来日した留学生を人材として育て上げるだけのビジョンが本気であるかどうかは、疑問を感じます。
グローバル30では13の大学が採択されましたが、先ず13大学では国際化実現を目指すには数として少ないですし、そもそも大学中心の流れにも疑問を感じます。
アメリカにならった大学進学に繋げる留学生誘致が日本に適しているとは思えません。
日本の国内事情はさておき、客観的に見れば、日本が留学市場にアピールするには、優れた技術力や企業の信頼性を武器に、日本語学校からの直接就職や、専門学校進学など、日本の質の高い専門性や企業の信頼性を生かしたビジョンを示す方がアピール度も高いはずです。

自発的に学ぶ環境を教師が作る

天野:日本語学校では様々な国籍の方々が学んでいると思いますが、国や地域によって、学生に違いはありますか?

山本:一人一人の個性は当然ありますが、学習に対する考え方や態度は国によって違いが見られます。
日本、中国、韓国などの国は受身の学習方法が身に付いています。
特に中国の場合、正解は必ず存在し、教師はそれを教える存在であり、正解を一つでも多く知ることが学習であるという考え方が強いようです。
一方、欧米圏の場合、旧西側の学生はよく言えば自由で活発。
悪く言えばわがままというか、全体授業が苦手な反面、グループワークには活発に参加します。
これに対し、旧東側の欧州は比較的受け身で教師のリーダーシップを求める傾向が強いので、自律的なグループ活動などは苦手です。

天野:文化も言語も違う生徒達を同じクラスで教えるために何か工夫などされていますか?

山本:多国籍なクラスのほうが、多様性を受け入れやすくなります。
例えばアメリカ人と韓国人だけのクラスで議論をすると、議論が対立してしまいがちです。
しかし、クラスに5カ国以上の学生がいると、意見が対立せずに多様性を受入れはじめます。

天野:なるほど。
2つの意見は対立するけど、多数の意見があると議論が発展しやすくなるのですね。
逆に多国籍ではないクラスでは議論を生むことは難しいということでしょうか?

山本:冷静な議論は難しくなりますね。
国籍数に関わらず、ディベートを取り入れて議論したり、同国の中でも違う考え方や価値観があることに気づく授業など、異文化理解を促す授業は行いますが。

天野:日本でもディベートやペアワークなどの手法をよく耳にするようになってきましたが、外国人の学生などはそういう授業に慣れているのでしょうか?

山本:必ずしもそうではありません。
私達の学校では、教師が話す時間を極力少なくして、生徒同士でなるべくたくさん話ができるように心がけるなど、教師はいわばファシリテーターに徹するのですが、実は私達の学校でもこのやり方は過去に学生の抵抗にあいました。
「先生が教えてくれない授業にお金を払いたくない」とはっきり言われたこともありました。
しかし今はうちのやり方として定着したと同時に、学生たちもいろいろなスタイルの学習になじむのが早くなってきたように感じます。

自分の価値をしっかり持った人材であれ

天野:グローバル人材とよく言われますが、様々な国の学生を見ていて、どのような人がグローバルだと思われますか?

山本:少子化で外国頼みになりつつあるこのご時世、日本では「グローバル」流行りですが、学生や海外で出会った人を見ていると、外国人だから、あるいは英語が話せるからグローバルなわけではなく、狭い世界観で硬直した考えの外国人は多く、むしろ英語の話せない日本人の方が、見方や柔軟性という点ではグローバルだと感じることはしばしばあります。
ただ、その柔軟性が自信のなさやアイデンティティの弱さにつながってしまっているところが問題なのです。
グローバル人材というのは、自分の国をよく知っている人、価値観が簡単にブレたりしないからこそ、違う価値観の中での重要性が発揮できる。
違いを価値あるバリエーションとして機能させることができる人材だと思います。
妙に計算高く交渉上手を気取るより、誠実に真面目に、敬意を持って丁寧に対応することは、実はとても大事です。
そうした根本的な人間としての価値観は、ユニバーサルな土台として人間社会の根底に流れるものだと思います。
江戸時代後期に岩倉使節団がアメリカやヨーロッパに渡りましたが、髷に和服姿の岩倉一行は堂々とした礼儀正しい立ち居振る舞いで、欧米諸国に気高くきちんとした国民として日本を印象づけることができました。
これは、ユニバーサルな価値観と日本独自の文化がうまくアピールしたいい例だと思いますし、アイデンティティをしっかりもっているグローバル人材の一つの姿ではないでしょうか。

天野:外国人=グローバルと思ってしまう人も多いと思いますが、日本の外にいるからグローバルなのではなく、世界に誇れる価値観を持っていることが大事なのですね。

山本:異文化理解などの柔軟性は、日本人としての価値観に加え、常に相手の文化を尊重するという態度の上に成り立つものだと思います。
違う文化を認めつつ、日本人としての自分の意見をきちんと言える人材が育って欲しいと思っています。

(2012年1月24日取材)

山本弘子さん

山本弘子さん
カイ日本語スクール代表
大学卒業後、ゼネコンに就職。2年後に退職し、日本語教師養成講座を受講し、日本語教育の世界に入る。'87年に仲間とともにカイ日本語スクールを設立。多国籍を旨とし、これまでに100カ国以上の留学生を受入れてきた。'05年ヨーロッパの語学学校協会IALCに入会。海外の語学学校や留学業者との交流を通して日本語留学の振興と質向上を目指して活動中。1児の母。

編集後記

「海外人材の受入れ」は日本の国際化の最も大きな課題の1つといえる。海外人材と言っても、欧米圏だけでなく世界中の様々な文化背景、言語を持った人材のことだ。
日本国内にいながらももう国際化は避けて通れない課題となっている。
ビジネスシーンだけでなく、日常生活の中で多国籍文化と向き合っていかなければいけない。
異文化理解ができる柔軟性は経験でしか身につかないだろう。
山本氏の日本語スクールはまさに日本の将来の縮図と言えるのかもしれない。

キンジロー編集長 天野智之

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