特集

全ての学生に「国際体験」を

秋入学への移行検討で注目される東京大学。
なぜ今秋入学なのか?東京大学が示す、日本の大学が向かうべき国際化の未来とは?!
東京大学副理事で経営支援担当部長の鈴木敏之氏に伺った。

秋入学で何が変わるのか

天野:率直に、なぜ今、秋入学への完全移行という議論になったのでしょうか?

鈴木:社会のグローバル化が急速に進む中で、産業界の要求する人材も高度化しています。
厳しい国際競争の中で、大学として競争力強化の為の対策の一つとして、秋入学の是非を議論しようということになったのです。

天野:秋入学で具体的に何が変わるのでしょうか?

鈴木:あくまで「秋入学」は東京大学が目指す国際化方策の選択肢の一つです。
むろん入学時期を変えるだけで国際化が飛躍的に進むわけではなく、教育システム全体の見直しが必要だと考えています。

天野:春と秋の2回入学など、他大学ですでに秋入学を導入している大学などもあると思いますが、完全移行するメリットはあるのでしょうか?

鈴木:学内会議からは完全移行という方向で提案が示されておりますが、今後さらに検討する必要があります。
秋入学の検討が進むことで、東京大学の国際化に向けた様々な改革が前に進むというメリットがあります。
また、入学時期を秋に設定している国が多いため、学生及び教員の国際的な流動性を高めることが期待されます。
東京大学でも英語による授業を増やし、それらだけで学位の取れるコースも拡充しており、学部段階でも本年秋から若干名の受入れを開始します。

ギャップターム・ギャップイヤーの活用

天野:秋入学へ完全移行をすると、高校卒業後に約半年のギャップ期間が生まれますが、そのギャップ期間をどう活用するのか、東京大学として学生に提供できることや、期待することはありますでしょうか?

鈴木:ギャップ期間が生まれることについても賛否両方の意見がありますが、学内会議からの提言では、これをポジティブにとらえるべきだとしています。
偏差値重視の価値観に捉われて受験勉強をしてきた学生も少なくないので、ギャップ期間を活用し、そうした考えをリセットし、視野を広げ、大学での主体的な学びの素地をつくる期間として欲しいということです。

天野:ギャップ期間は高校生でも大学生でも無くなってしまうなど、社会的な身分保障の問題もでてくると思いますがその部分はどうお考えですか?

鈴木:ギャップタームの間に何らかの身分を与えるかどうかは大きな検討課題の一つです。
当事者のメリットを考慮して、学生とする方法も選択肢になります。
その他、ギャップタームの間の有意義な体験、例えば短期留学などの学習成果に対して単位を認定するかどうかということも検討課題になります。
ただし、本来は自由な期間として構想されているので、大学がどこまで関与するべきか十分考えることが必要ですね。

多様性を育む。アジアの中の東京大学

天野:ここ数年は世界の大学ランキングなどが日本でも注目されるようになってきましたが、東京大学として今後の目標などはあるのでしょうか?

鈴木:大学ランキングの評価の中で、「留学生比率」や「外国人教員比率」などの国際化指標の比重はあまり大きくありません。
秋入学の結果として指標に変化が現れても、ランキングに大きな影響は無く、また、そのようなことを秋入学で目指している訳ではありません。
教育システム全体の本質的な国際化を考えていきたいと思っています。

天野:東京大学の目指す理想の「国際化」大学とはどういうものでしょうか?

鈴木:多様性を持った大学です。
多様な属性を持った学生がお互いに切磋琢磨するようなキャンパスにしたいですね。
現在は、国籍、性、出身地域などの面で属性に偏りがあるという問題意識を持っています。
そうした状況は、「よりグローバルに、よりタフに」学生を育てるという目標を達成する上で乗り越えていくべきと思います。

天野:小学校での外国語活動の開始など、初等・中等教育での英語学習も変わりつつありますが、東京大学として今後求める学生像はどのように変わっていくと思われますか?

鈴木:語学力というスキルを高めることも大事ですが、リベラルアーツを重視する東大が求めるものは、より幅広い力です。
教養に裏打ちされた思考、それを積極的に発信するコミュニケーション力が求められます。
語学についても「英語」だけを考えていれば良いというものではありません。
台頭するアジアの大学との交流なども益々重要になってきています。
東京大学としてもアジアに位置しているということを重視しつつ、様々な国と交流を広げていきたいと考えています。

(2012年4月24日取材)

鈴木敏之さん

鈴木敏之さん
東京大学副理事兼経営支援担当部長
東京大学卒業後、平成2年に旧文部省入省。放送大学学園、文部科学省高等教育政策室長などを経て、平成20年から東大職員。平成22年に副理事就任。

編集後記

日本中に衝撃を与えた東大の「秋入学」の話題。日本の最高学府の動きは注目の的となった。
秋入学への批判もあるが、ぼんやりとしていて中々前に進まなかった日本の大学の「国際化」の動きや議論が各校で活性化した。
それこそが東大の狙いであり、凄さであるのかも知れない。
メディアでは「秋入学」ばかりが注目されているが、東大の国際化の計画は綿密に進められている。
日本の教育現場の国際化に対して一石を投じた姿には、日本の教育をリードする東大の威厳すら感じる。
日本の最高学府が今後世界とどう競争していくのか。
日本の教育の未来をどうリードしていくのか、目が離せない。

キンジロー編集長 天野智之

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